100億企業化

【100億宣言】株式会社NCI、”誰かのため”から始まった挑戦。人材育成と多様性で描く600億企業への道筋

2026.06.05

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代表取締役社長 佐久間弘一
 

東日本大震災という未曾有の国難の直後、一人の経営者のもとに舞い込んだのは、大手メーカーからの「従業員の雇用を守ってほしい」という異例の要請だった。株式会社NCIの物語は、自らの利益追求ではなく、”誰かのため”という純粋な使命感から幕を開けた。人材派遣と業務請負を基盤としながら、障害者福祉、製造業へと事業を拡大。その根底には、創業時から一貫して流れる「人の可能性を信じ、チャンスを提供する」という哲学がある。同社は「売上600億円、時価総額250億円」という壮大なビジョンを掲げ、次なる成長ステージへと舵を切る。その挑戦の軌跡と未来への展望を追う。

企業情報
会社名
株式会社NCI
設立
2011年5月16日
従業員数
85名(2025年3月末現在)
事業内容
労働者派遣、有料職業紹介、業務請負事業
100億宣言
https://growth-100-oku.smrj.go.jp/companies/pdf/01433-00.pdf
HP
https://www.nci6.com/

 

震災直後の決断、26名の雇用を守るための船出

2011年3月、東日本大震災が日本全土を揺るがした。経済が混乱し、多くの企業が事業の縮小を余儀なくされる中、佐久間弘一社長(当時、別会社役員)のもとに、取引先の大手メーカーから一本の電話が入った。その内容は、「工場の再編に伴い、60歳以上の社員とパート従業員、計26名を解雇せざるを得ない。しかし、彼らの持つ貴重な技術は事業に不可欠だ。彼らの雇用の受け皿となる新会社を設立してくれないか」という、極めて異例の相談であった。
 
この打診があったのは、震災前の2010年10月。当初は設立に向けてメーカー社内での調整が難航していたが、震災後の2011年4月、「6月には転籍を完了させたい」と、計画が急遽再始動する。社会全体が先行き不透明な状況下で、新会社を設立するのは無謀とも思える決断だった。しかし、佐久間社長の脳裏にあったのは、リストラの対象となった従業員たちの顔だった。
 
急ピッチで新潟県南魚沼市に事務所を構え、会社の登記を済ませ、対象者一人ひとりと面談を重ねた。そこで彼らが口にしたのは、「ぜひ、私たちに頑張らせてください」という、前向きで真摯な言葉だった。この言葉が、佐久間社長の心を強く打った。「この人たちのために、全力を尽くそう」。こうして2011年6月、株式会社NCIは、従業員の雇用を守るという使命を帯て、その歴史の第一歩を踏み出したのである。

「金がすべて」から「人のために」へ。経営者としての転換点

NCIの創業以前、佐久間社長は金融業界でキャリアを積んでいた。26歳で最年少支店長に就任するなど、順風満帆なビジネスマン人生を歩み、「世の中は金で動かせる」とさえ考えていたという。数字こそが自らの価値を証明する唯一の指標であった、と佐久間社長は当時を振り返る。
 
しかし、縁あって人材業界に転身し、多くの経営者や働く人々と深く関わる中で、その価値観は180度転換する。「世の中は、金だけでは動かない」。顧客から、従業員から、そして地域社会から「ありがとう」と感謝されることに、何物にも代えがたい喜びを感じるようになった。数字を追い求めるだけでは得られなかった、仕事の真の価値に気づいた瞬間だった。
 
この変化があったからこそ、震災後の困難な状況下でも、メーカーからの要請を「誰かのために」という一心で引き受けることができた。もともと社長という立場に魅力は感じていなかった。しかし、顧客のため、そして人生の岐路に立たされた26名の従業員のためならば、自らが矢面に立とうと覚悟を決めた。この創業の精神は、NCIの企業理念「私たちは、関わりをもった人々に『幸せ』を贈る」という言葉に、今も色濃く受け継がれている。

利益追求ではない、雇用を守るための製造拠点

NCIは創業後、早い段階で自社工場を設立している。人材サービスを主軸とする企業としては、異例の事業展開だ。この背景にも、同社ならではの「人」を基軸とした経営哲学が存在する。
 
派遣事業においては、派遣先の都合で契約が終了し、スタッフが職を失うリスクが常につきまとう。たとえ優秀な人材であっても、次の就業先がすぐに見つかるとは限らない。「ならば、自社で雇用の受け皿を作ればいい」。工場設立の目的は、利益の追求ではなく、あくまで従業員の雇用を守るためのセーフティーネットであり、同時にものづくりのスキルを磨くトレーニングの場とすることだった。
 
幸い、創業のきっかけとなった大手メーカーのOBには、ものづくりのノウハウを持つ人材が豊富にいた。彼らの協力を得て、小さな工場からスタート。現在では、メーカーが廃校を改修した施設の一部を借り受け、本格的な製造ラインを稼働させている。たとえ製造事業単体では利益が少なくとも、従業員が安心して働き続けられる環境を整えることこそが、企業の持続的な成長に不可欠であるという信念が、このユニークな事業モデルを支えている。

障害者福祉の常識を覆す。「納税できる人材」を育てる挑戦

NCIの事業ポートフォリオの中で、ひときわ異彩を放つのが、障害者就労支援事業「かるみあ」の運営だ。この事業もまた、「人のために」という想いから始まっている。きっかけは、ある施設関係者から聞いた「親が亡くなれば、ここの子たちの多くは生活保護になる」という衝撃的な一言だった。「同じ人間なのに、そんなことがあってたまるか」。佐久間社長は、障害を持つ人々が当たり前に自立し、社会に貢献できる仕組みを作ることを決意する。
 
かるみあが目指すのは、単なる「作業の場」の提供ではない。「一人ひとりが自立し、納税できる人材になる」という明確なゴールを掲げ、徹底した育成プログラムを実践している。挨拶や朝礼といった社会人としての基礎はもちろんのこと、3D-CAD、システム開発、さらにはメタバースといった、他の施設では例を見ない先進的なデジタル教育を導入。これにより、利用者は専門的なスキルを習得し、毎年10名以上が一般企業への就職を果たしている。
 
「たまたま障害を持っているだけで、チャンスがないだけ。きっかけさえあれば、人は変われる」。その信念のもと、かるみあは福祉の枠を超えた「教育機関」として機能し、多くの人材を社会に輩出。事業としても高い収益性を確保し、社会性と経済性の両立を見事に実現している。

故郷・福島への本社移転という使命

創業以来、新潟県に拠点を置いてきたNCIだが、大きな転換点となったのが、佐久間社長の故郷でもある福島県郡山市への本社移転だ。これもまた、自社の都合ではなく、外部からの要請がきっかけだった。
 
同社は現在、上場を視野に準備を進めているが、その中で監査法人から「福島県には上場企業が少ない。県のIPO支援助成金を活用し、福島で上場してはどうか」という提案を受けた。当初、本社の所在地が新潟であることがネックとなったが、その後、福島県知事と会う機会を得る。知事から直接、「福島県は若者、特に女性の県外流出が深刻な課題。ぜひ福島を拠点に、県の活性化に力を貸してほしい」と熱心な要請を受けた。
 
「誰かのために」を原点とする同社にとって、これは断る理由のない話だった。故郷の発展に貢献できるならばと、本社を郡山に移転することを決断。斬新なデザインの新社屋は、採用活動における広告塔として機能し、学生の関心を集めている。事業戦略上のメリットだけではなく、地方創生という新たな社会的使命を担うという覚悟が、この大きな経営判断の背景にはあった。

株式会社NCI 本社外観

地方の壁と、未来を拓く「東京」という次の一手

福島への本社移転は、地方創生への貢献という大きな意義を持つ一方で、新たな課題も浮き彫りにした。それは、優秀な人材、特に事業の成長を牽引する管理職や専門職の採用の難しさだ。大学の数が限られる地方では、そもそも母集団の形成が難しい。本社移転により、新卒学生のエントリー数が減少するという現実にも直面した。
 
「このままでは、描いている成長戦略は実現できない」。佐久間社長は、経済同友会で出会った帝国データバンクの支店長から「グローバル展開を目指すなら、すぐにでも東京に拠点を構えるべきだ」と強く助言されたこともあり、次の一手として東京進出を決意する。
 
2026年中に、まずはシェアオフィスを活用し、東京に拠点を設立。その狙いは明確だ。第一に、CFO(最高財務責任者)や事業開発を担うハイクラス人材の採用。第二に、今後の成長の柱と位置づけるM&A戦略の推進拠点とすること。そして第三に、首都圏の優秀な学生にアプローチするための採用活動の強化である。地方に根を張りながらも、成長の活路を東京に求める。このハイブリッドな戦略こそが、地方企業が全国、そして世界で戦うための現実的な解なのかもしれない。

「多様性」を武器にする、独自の請負ビジネスモデル

上場を控え、売上600億円、時価総額250億円という壮大な目標を掲げるNCI。その成長戦略の核となるのが、「請負事業」の進化だ。同社が目指すのは、単なる業務の請負ではない。そこに「多様な人材」を組み込むことで、他社にはない独自の価値を創造しようとしている。
 
具体的には、請負現場の1〜2割を、特定技能を持つ外国人と、かるみあで育成した障害のある社員で構成するというものだ。これにより、企業は人手不足の解消と、障害者雇用率の達成という二つの課題を同時に解決できる。NCIにとっては、安定した収益基盤の構築と、理念である「多様な人々の活躍の場の創出」を両立するビジネスモデルとなる。
 
このモデルを武器に、まずは北関東エリアを攻め、将来的には福岡まで拠点を広げていく計画だ。1拠点あたり2億円の売上増を見込んでおり、拠点展開がそのまま事業成長に直結する。M&A戦略においても、派遣会社ではなく、このビジネスモデルとシナジーのある工場や教育機関をターゲットに据える。すべては、”多様性”を競争力に変えるという、一貫した戦略に基づいている。

未来を創る「教育」への投資

NCIの成長戦略を語る上で、欠かせないキーワードが「教育」だ。同社は今後、M&Aによって教育機関を獲得し、人材育成事業を本格化させてしていく。その構想の中心にあるのが、郡山に建設を計画している「管理者トレーニングセンター」だ。
 
請負事業を全国に拡大していく上で、最大のボトルネックとなるのが、現場を管理・監督する「管理職」の不足である。この課題を解決するため、自社で管理職を育成する専門施設を設立。1階を実践的なトレーニングを行うための工場とし、2階を障害者向けのDX・AI教育に特化した専門センターとする計画だ。ここで育成した人材を全国の拠点に送り込むことで、サービスの質を担保しながら、事業拡大のスピードを加速させる。
 
「三流の人材も、AIを使いこなせば一流になれる」。佐久間社長は、教育こそが人の可能性を最大限に引き出すと信じている。障害の有無や学歴に関わらず、誰もがデジタルスキルを武器に一流として活躍できる社会。NCIが「教育」に投資するのは、単なる事業戦略としてだけではなく、創業以来の想いである「すべての人にチャンスを」という理念を実現するための、必然的な選択なのである。

【まとめ】

株式会社NCIの歩みは、「誰かのために」という利他の精神が、いかに強固な事業基盤を築き、企業の成長エンジンとなり得るかを雄弁に物語っている。震災の中から生まれた小さな会社は、人の温かさに支えられ、今や地域社会に不可欠な存在となった。
 
上場はゴールではなく、600億円企業という壮大なビジョンに向けた新たなスタートラインに過ぎない。多様な人材が活躍できる独自のビジネスモデルと、「教育」という未来への投資を両輪に、NCIの挑戦はこれからも続いていく。その道のりは、多くの企業にとって、事業の成長と社会的価値の創出を両立するための、確かな道標となるだろう。

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