【100億宣言】TAIMATSU|伝統工芸の再定義とグローバル展開

2026.09.29

日本の伝統工芸領域において、従来の流通構造やマーケティングのあり方を根本から再定義し、グローバル規模での急成長を志す企業が存在する。和包丁ブランド「MUSASHI JAPAN」を中心に、日本酒事業や体験型文化施設の運営など多角的な事業を展開するTAIMATSU株式会社である。

同社は、単なる伝統工芸品の代理販売にとどまらず、企画・製造・自社ブランド化・直営店舗展開・グローバルECを一貫して手がける独自のサプライチェーンとD2C/O2Oモデルを確立してきた。デジタルマーケティングの知見と、徹底的に最適化された店舗オペレーション、さらに職人技術のDX(デジタルトランスフォーメーション)を融合させることで、高い収益性と社会的価値の両立を実現している。

本稿では、同社が歩んできた創業からの軌跡、製造・販売・組織運営における革新的な取組み、そして2029年度の売上高100億円達成と「世界の伝統工芸プラットフォーム」構想に向けた戦略的ロードマップを詳細に紐解く。

企業情報
会社名
TAIMATSU株式会社
創業(グループ)
2023年11月15日
従業員数
350名
事業内容
包丁や日本酒・香水の販売・飲食・伝統文化体験事業
グループ事業:不動産事業、動画制作事業
100億宣言
https://growth-100-oku.smrj.go.jp/companies/pdf/02940-00.pdf
HP
https://www.tai-matsu.jp

広告マーケティングの最前線で磨かれた経営眼と「社会的意義」の追求

TAIMATSUの創業者が歩んできたキャリアの原点は、極めて高度なデジタルマーケティングの実践と、データ駆動型の意志決定プロセスにある。
学生時代から単品通販やコスメ領域におけるECマーケティングに携わり、広告運用の最適化や数値分析を通じて事業規模を拡大させる知見を培ってきた。市場の波を捉え、投資対効果を極限まで高めるトレーディング手法のような広告運用ノウハウは、後の事業開発における大きな強みとなった。

その後、国内大手広告代理店に入社し、自治体や観光局におけるインバウンド招致プロジェクトのフロントラインに参画した。多国籍なターゲット市場に向けた複雑な消費者インサイトの分析、多言語での戦略的コミュニケーション設計、そしてデータ管理プラットフォーム(DMP)や位置情報データの連携といった先進的な手法を駆使し、数億円から数十億規模の大型プロジェクトを長年にわたり成功へ導いた。

しかし、大規模な広告予算を動かす経験を重ねる中で、自問自答を繰り返すこととなる。単に過熱する市場で短期的な消費を促す構造や、広範かつ浅いプロモーションにとどまる施策ではなく、「真に持続可能な社会的意義を持ち、日本の優れた文化や技術を世界へと繋ぐプロダクト」を自らの手で創り出し、育てるべきではないかという強い危機感と決意であった。
この思想的転換こそが、後に同社が日本の伝統工芸領域へと参入し、既存の流通概念を根底から打破していく最大の原動力となったのである。過酷なグローバル市場において、言語や文化の壁を乗り越える難しさを熟知していたからこそ、表層的なプロモーションではなく、プロダクトの本質的な価値と緻密な事業設計を融合させるという確固たる経営哲学が形成された。

斜陽化する伝統工芸への挑戦と自社ブランド「MUSASHI JAPAN」の確立

日本の伝統工芸産業は、国内市場の縮小や後継者不足、さらには分業制に伴う中間マージンの拡大により、長年にわたり衰退の途を辿ってきた。
かつて世界に誇った職人技や歴史的産地が次々と姿を消していく現状に対し、多くの事業者が危機感を抱きながらも、構造的な変革を果たせずにいた。

こうした市場環境に対し、同社は他社製品のコンサルティングや代理販売という安全なポジションを意図的に排除した。職人の優れた技術を第三者として紹介するだけでは、産業全体の持続可能なV字回復(Jカーブ成長)を描くことはできないと判断したためである。自社で直接リスクを取り、世界観の構築から仕入れ・製造・販売に至る全責任を負う「自社完全ブランド化」の道を選択した。

ブランド立ち上げ期においては、共同創業者とともに全国の産地や職人のもとへ自ら足を運び、徹底した買い切り交渉と信頼関係の構築を行った。
伝統工芸の現場では、見知らぬ新興企業や外国人経営者に対する警戒感が根強く存在していたが、提示したのは単なる仕入れ交渉ではなく、生産者の将来性を正当に評価し、持続可能な対価と継続的な発注を約束する新たなエコシステムであった。

こうして誕生した和包丁ブランド「MUSASHI JAPAN」は、日本の職人が鍛え上げた高い機能性と美しさを、現代のグローバル消費者が求めるデザイン・コンテキストへと再構成した。職人の銘柄頼みの販売手法から脱却し、ブランド全体としての世界観と品質保証を前面に打ち出すことで、特定の生産者に依存しない持続可能なブランド基盤を確立することに成功したのである。

ECから実店舗主導へ――体験価値の創出と高収益店舗モデルの構築

事業の初期段階においては、コロナ禍における巣ごもり需要やインバウンドのストップという逆風を受け、オンラインECに特化した販売戦略を推進した。高度なウェブ解析と広告運用技術を駆使し、世界166カ国以上に及ぶ顧客ネットワークを早期に構築。少人数体制でありながら年間数億円規模の売上を達成し、強固な財務基盤を作り上げた。

しかし、製品の認知とブランド価値のさらなる向上を追求する中で、画面越しでのグラフィック提示やSNSでの発信だけでは、和包丁が持つ手触り、刃付けの繊細さ、重量バランスといった「本質的な体験価値」を伝えきれないという限界に直面した。そこで、同社は業界の常識に反し、オンラインから「実店舗主導の体験型O2Oモデル」への大規模な戦略シフトを敢行した。

東京・浅草の歴史ある商店街への出店を皮切りに、京都の主要エリア、渋谷、表参道、大阪、広島、金沢といった国内主要都市・観光地へ積極的に直営出店を重ね、現在では世界中で23店舗を展開。計画・準備中の店舗を含めると、35店舗規模へと拡大している。

この店舗展開を支えているのが、徹底した内装施工・オペレーションの内製化と、圧倒的な投資回収スピードである。
店舗の空間デザインや施工、VMD(ビジュアル・マーチャンダイジング)を自社チームで内製化することで初期投資費用を大幅に圧縮。さらに、出店立地の選定においては独自の人流データと属性分析を駆使し、浅草店をはじめとする主要店舗では売上に対する家賃比率を低水準に抑えるという、極めて高い収益性の店舗モデルを実現した。

店舗運営においても、多言語に対応した接客マニュアルを独自開発し、来店客に対する声かけのタイミング、包丁の研ぎ直しや手入れのデモンストレーション、ストーリーテリング手法を標準化。実店舗を単なる商品の販売場所ではなく、「日本文化と伝統工芸を体験するエンターテインメント空間」へと変革させたことが、高い購買転換率と客単価の上昇を実現している。

製造プロセスの内製化とDX推進――伝統技術の標準化と次世代継承

店舗網の急速な拡大に伴い、最大の課題となったのが「製品の安定供給」と「均一な高品質の維持」であった。従来の職人依存型の調達ルートでは、職人の高齢化や生産能力の限界により、世界的な需要拡大に追いつかないリスクが顕在化していたためである。

このボトルネックを解消するため、同社は流通事業者から「製造機能を併せ持つメーカー型商社」への脱却を図った。東京・北砂エリアに自社製造ラボ(工場)を設立するとともに、岐阜エリアには24時間稼働が可能な最新鋭の未来型製造拠点を構築予定である。

この自社工場において推進されたのが、職人の長年の経験や勘といった暗黙知のデジタル化・標準化である。
従来、職人が長年の修行で身につけていた刃付けや研削の技術に対し、最新の自動荒砥機(アラトギ)や高精度な検査機器を導入。鉄の形状加工や基礎研磨といった定型化可能な工程を機械化・自動化することで、労働環境の安全性を飛躍的に高めると同時に、製造ライン全体の生産性を劇的に改善した。

この技術革新は、伝統工芸における継承のあり方をも一変させた。
新入社員や若手職人が長期間の下積み生活を送ることなく、短期間で高度な研磨・仕上げ技術を習得できるカリキュラムと設備環境を整備。熟練職人は高付加価値な特殊加工や技術指導、新製品開発に集中できる体制を整えた。
また、伝統的な弟子制度の限界を超え、次世代の若手人材や技術者を正社員として雇用・育成する仕組みを確立したことは、地域産業の雇用創出と技術継承においても極めて大きな意義を持っている。

8割が外国籍のダイバーシティ組織とIPOを見据えたガバナンス強化

TAIMATSUの成長を内側から支えているのが、徹底したダイバーシティ&インクルージョンを体現する組織構造である。全社における外国籍社員の比率は約8割に達し、フランス、ドイツ、ウクライナ、インド、中華圏、英米圏など、多様な国籍と文化背景を持つ人材が結集している。

多様なバックグラウンドを持つメンバーが融合する組織においては、日本型の曖昧な指示や暗黙の了解は機能しない。同社では、評価制度や業務プロセスの透明化を図り、明確な言語化と数値目標に基づくマネジメントを徹底している。
世界各地から集まるスタッフの多様な視点や自由な発発想を活かしつつ、ブランドが目指すビジョンとクオリティ基準を全社で共有するための研修プログラムを定期的かつ継続的に実施している。

また、急速な事業拡大と将来の株式上場(IPO)を見据え、経営体制およびガバナンスの強化にも着手している。
大手監査法人によるショートレビューや会計監査を導入し、適正な財務報告体制を構築。さらに、大手金融機関やグローバル企業での豊富な実務経験を持つCFO(最高財務責任者)を経営陣に迎え、ファイナンス戦略と内部統制の高度化を進めている。

海外出店に伴う不動産契約、複雑な国際法務、各国特有の労務環境や環境規制への迅速な適応力は、同社が誇る高い組織的強みである。パリでの店舗オープンに続き、ハワイをはじめとする海外主要都市への出店準備を加速させるなど、グローバル展開を力強く推し進めている。上場企業レベルのガバナンスと信用力を早期に構築することで、海外の超一等地への旗艦店出店や、大型の事業提携を可能にする取引基盤を整えている。

複数ブランド展開と「2029年度売上高100億円」へ向けた成長ロードマップ

同社は、経済産業省が推進するプロジェクトにも賛同し、明確な中期目標として「2029年度に売上高100億円」の達成を掲げている。この高い目標数値は、既存の「MUSASHI JAPAN」事業の伸長のみならず、多角的なブランドポートフォリオとプラットフォーム事業の成長によって裏付けられている。

現在、同社は和包丁ブランド「MUSASHI JAPAN」に加え、日本の伝統蔵元と連携したプレミアム日本酒の販売からスタートし、リブランディングを経て、現在は香水も展開する「YOKAI JAPAN」、侍精神や職人技を五感で体感できる参加型の修行体験施設「FUJI JAPAN」を展開している。
さらに直近では、伝統工芸のコンテキストと現代アート・最新素材技術を融合させた新ブランド「FE」を立ち上げ、多角的なブランド生態系を形成している。今後は、これらの事業やブランドを「MUSASHI WORLD」という一つの世界観に統合し、包丁やフレグランス、香、茶器、アパレル、インテリア、文化体験など、日本文化を軸とした幅広いカテゴリーへ展開するライフスタイルブランドへと進化させていく方針である。

さらに、自社ブランドの展開で培った免税処理DXシステム「SAMURAI TAX(サムライ タックス)」や、グローバル店舗運営・物流ノウハウをプラットフォーム化し、他の伝統工芸事業者や地方の優れたメーカーへ提供するBtoBソリューション事業も開始。自社のみならず、業界全体の海外進出と収益性改善を支援するエコシステムを拡大させている。

創業者が見据える最終的なビジョンは、日本の伝統工芸の枠組みすら超えた「世界の伝統工芸プラットフォーム」の構築である。
歴史と価値を持ちながらも、時代の変化に取り残されつつある世界各国の手仕事や伝統技術を同社のエコシステムへと取り込み、現代のテクノロジー、ブランディング、グローバル流通網と掛け合わせることで再定義していく。「2029年度の100億円達成」というマイルストーンを越え、世界中の価値ある文化財産を未来へと継承するための挑戦は続いていく。

まとめ

TAIMATSU株式会社の歩みは、デジタル時代における「伝統工芸の復興とグローバル成長」の新たなモデルを示している。高度なマーケティング分析、直営店舗による圧倒的な体験価値の創出、製造工程の内製化とDX推進、そしてダイバーシティに富む組織力。これらを統合した独自の事業モデルは、従来の伝統産業が抱えていた収益性と持続可能性の課題に対する明確な解答である。

和包丁から始まった革新の波は、日本酒、アート、体験型施設、自社開発システム「SAMURAI TAX」、そして世界の伝統文化領域へと広がりを見せている。
「2029年度売上高100億円・営業利益率25%以上」という明確なロードマップを掲げ、日本の職人技術とグローバル市場を力強く手繰り寄せる同社の挑戦は、産業全体の未来を照らす光となっている。

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