【100億宣言】株式会社オータマ|微弱磁気制御技術で最先端産業の未来を切り拓く
2026.09.16

地磁気の十億分の一という、人間の目には決して見えない極めて微弱な磁界を巧みにコントロールし、最先端産業を足元から支える企業がある。半導体デバイス製造、精密な生体磁気計測、量子テクノロジーなどの最先端領域においては、ごく微小な電磁波や外部の磁気ノイズが決定的な障害となる。これを精密に遮蔽し、制御するのが「磁気シールド」の役割である。
かつてはアナログで素朴な金属カバーと考えられていたこの領域において、国内でも極めて稀有な磁気シールド専門メーカーであり、代替されにくい存在として独自の立ち位置を確立しているのが株式会社オータマである。1964年の創業以来培われた「経験と勘」に基づく高度な板金・熱処理技術は、学術研究や産業インフラの技術革新をリードする提案型テクノロジーへと昇華を遂げた。
そのイノベーションの軌跡と、2030年の売上高100億円達成に向けた「100億宣言」や社会的責任への決意について、代表取締役社長・奥村哲也氏の変革の足跡とともに紐解く。
- 企業情報
- 会社名
- 株式会社オータマ
- 設立
- 1964年2月
- 従業員数
- 154名
- 事業内容
- 磁気遮蔽部品製造、材料販売、磁性焼鈍・熱処理、磁気および電磁波の測定とその対策(磁界測定)、磁気および電磁波遮蔽加工
- 100億宣言
- https://growth-100-oku.smrj.go.jp/companies/pdf/02776-00.pdf
- HP
- https://www.ohtama.co.jp/index.html
磁気シールドの社会的使命とオータマの立ち位置
私たちの身の回りは、スマートフォンや鉄道、高圧電線など、あらゆる電気機器が放出する「磁気ノイズ」に満ち溢れている。日常の生活においては意識されることのないこのノイズも、ナノメートル単位の制御が要求される最先端の精密機器においては、動作を乱す決定的な要因となる。
これらを防ぐための磁気シールドは、単なる物理的な覆いではなく、外部の磁界を吸収して迂回させる高度な防磁設計を必要とする。この分野で独自の技術力を発揮しているのが株式会社オータマである。1964年の創業から培われた職人の手技を土台に、同社は磁気特性を極限まで高める熱処理技術と、精密な三次元磁場解析を組み合わせた高精度なシールド構造を開発してきた。
その卓越した技術力により、同社は磁気シールドが不可欠な国内の多様な先進科学分野から絶対的な信頼を獲得。他に類を見ない高度な専門性を有するメーカーとして広く認知され、社会になくてはならない最先端研究や精密医療、工業インフラを根底から支え続ける社会的使命を担っている。

廃業危機の町工場から主役への大転換
オータマが歩んできたこれまでの道のりは、決して平坦なものではなかった。創業当初はテレビのブラウン管やスピードメーターなどのモーターカバーといった、大量生産を中心としたシールド部品の製造が主力事業であった。
しかし、アナログからデジタルへの急速な技術シフトに加え、2008年に発生したリーマンショックの打撃により、既存の需要は激減の一途をたどる。2009年に、現代表取締役社長の奥村哲也氏が経営の「縮小均衡」とリストラを推進するための要として招聘された当時、従業員の平均年齢は50代を超え、何年も大規模な設備投資が行われていない典型的な下請け町工場であった。未来の展望を描くことが困難な状況下において、同業他社は次々と市場から撤退していった。
しかし、競合が消滅していく中で、精密機器メーカーや研究機関から「供給が絶たれれば日本の先端技術開発が停止してしまう」という懇願の声が殺到した。この社会的供給責任を重く自覚した奥村氏は、2011年に社長へ就任。親族からすべての株式を買い集め、自らが全責任を負う覚悟を固めた。事業の縮小や撤退ではなく、むしろ「この分野の専門企業としてすべての社会的需要を引き受ける」という極めて大胆な経営判断を下し、同社は「業界の最後の主役」として再起を誓ったのである。
職人技と最先端学術理論の高度な融合
社長就任を契機に、奥村氏は自社技術の再定義を精力的に推し進めた。特許データベースの徹底的な分析を通じて、軟磁性材料の応用特許が学術界で増加している事実を発見し、自ら全国23箇所の大学や研究機関を訪問した。その中で出会った超電導分野の権威から「お前たちの技術は半世紀以上進化していない。だから素晴らしい先進医療技術が実用化されないのだ。」との厳しい指摘を受ける。
先進的な生体磁気の検出には極めて高精度なシールド環境が必要であったが、従来の職人の勘に頼る手法では、設備の肥大化と数億円規模の莫大なコストを招き、普及は不可能視されていた。オータマは、この課題を根本から打破するため、複数の学術機関との共同研究を本格化。熱処理や加工に伴う磁性材料の特性変化を計測し、高度なシミュレーション技術によって詳細に解析・データ化した。
実測値と予測値の差異を愚直に検証し、補正し続ける手法を確立することで、長年ブラックボックス化していた「職人技」を客観的な「学術理論」へと昇華させ、高い再現性を持つ高度な微小磁界遮蔽設計技術を確立したのである。
JISの常識を打ち破る新素材とものづくり大賞の評価
オータマは、経済産業省が推進する「戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン事業)」への採択を受け、極めて微弱な磁界を高効率に遮蔽する技術の研究をさらに深めた。1000℃を超える過酷な高温下で水素熱処理(磁性焼鈍)を施し、原子配列を整えるアニールプロセスは、材料が持つポテンシャルを最大化させるために不可欠な技術である。
同社はこの熱処理に関する精密な制御能力と、独自の設計シミュレーションを高度化させた。さらに、従来のJIS規格で一般的に用いられてきた初期透磁率の指標「ミューアイ」による評価の限界に対し、極微小な磁界変化に対応する独自の新たな指標「ミューデルタ(μΔ)」を制定し、その精密な測定手法を確立した。
これらの研究成果を結実させ、微小な電磁波や磁気ノイズの遮蔽に特化した高透磁率シールド材料『Mudelta metal®(ミューデルタメタル)』の開発に成功。
この卓越したイノベーションは、最先端の科学技術や医療機器開発を支える画期的な技術として高く評価され、「第10回ものづくり日本大賞」を受賞する快挙を達成。その確固たるものづくりの実力は広く認められるところとなった。

日本特有の環境優位性と超少量多品種への適応
オータマの磁気制御技術が突出した強みを持つ背景には、日本特有の過密な土地環境がある。工業地帯と医療・研究地帯が明確に区分されている欧米とは異なり、日本では強大な電磁波を放つ交通インフラのすぐ隣に、極めて敏感な超精密装置や病院が設置される。
この「強烈なノイズ源」と「極微小な測定器」が極至近距離で混在する過酷な実環境こそが、同社の技術を鍛え上げ、多様なカスタム要求に即応する柔軟性を育んできた。オータマは、月間で1,000以上に及ぶ出荷件数があるが、その実に8割は生産数が10個以下である。
この過酷な多品種少量生産体制を強力に支えるのが、調達までに通常4ヶ月から半年を要する高価なパーマロイ材料の自社在庫保有体制である。数十種類に及ぶ材料を常時確保し、設計、板金加工から熱処理まで自社の一貫プロセスで完結させることにより、商社等の中間コストを排除した適正な価格設定と、他社に真似のできない圧倒的な短納期対応を可能にしている。
逆境の経験者を力に変える異能集団の組織論
急激な規模拡大を果たす中で、オータマは独自の思想に基づいた人材マネジメントと組織開発を進めてきた。奥村社長が幹部採用において最重視するのは、華々しい経歴ではなく「過去の大きな挫折や失敗の経験」である。業界の構造変化の中で行き場を失った高度な技術者や、かつて他社を率いて逆境を味わった元経営者など、挫折の痛みとそこからの這い上がり方を熟知する人物を積極的に登用。
失敗の経験を持つ幹部たちがそれぞれの知見を持ち寄り、当事者意識を発揮することで、新規事業開発や設備投資に関するリスク管理と意思決定が極めて迅速に行われる体制を構築した。また、開発現場においても「趣味で独創的なゲーム開発を極めていたプログラマー」など、ある分野に対し並々ならぬ情熱を注ぐ異能のエンジニアが参画。
磁界シミュレーションを生きがいとする研究者の加入などもあり、自社でシミュレーションによる予測技術を高度化させてきた。磨き抜かれたアナログ技能と、異能の人材がもたらしたデジタル技術との高次元な融合こそが、オータマの強靭な組織とイノベーションを支える原動力となっている。

先端産業のインフラとしてのさらなる成長を支える基盤強化
現在、オータマは経済産業省主導の「100億宣言」を掲げ、2030年に向けた中長期的な高成長路線を邁進している。自社が培ってきた唯一無二の磁気シールド技術を、先端産業の永続的な社会インフラとして広く還元するため、成長を加速させる資本戦略と事業基盤の強化に取り組んでいる。
脱炭素社会の実現に向けた電気自動車(EV)開発の急進やエネルギー効率の向上、量子計算といった新市場の拡大に伴い、オータマが果たすべき貢献の重要度は劇的に高まっている。これら先進的な基礎研究や、最先端の測定設備、新たな研究所の建設をスピード感を持って進めるためには、確固とした財務基盤とそれを支える事業の高い収益性が必要となる。
また、同族経営に起因し得るリスクを極小化し、企業としての透明性と説明責任を徹底することが重要だとの考えの下、成長に伴う組織・経営の高度化を進めている。客観的なガバナンス体制を強固に確立し、世界中からより優秀な専門人材を惹きつけることで、日本のものづくりの神髄とも言える技術を確実に次世代へ継承していく。売上高100億円という目標に挑むことは、人類の先端技術の未来と社会の発展に対する、同社の揺るぎない覚悟の表明にほかならない。
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