制度に振り回されない経営が105億円をつくった

2026.10.27

いつもお読みいただき、誠にありがとうございます。
船井総合研究所 ミッドマーケット支援本部 副本部長 岡﨑 晃平です。

今回ご紹介するのは、広島県呉市に本社を置くマイライフ株式会社様です。保険薬局「オール薬局」を広島・岡山・島根に展開し、2026年3月期に売上高105億円を突破しました。社員564名、うち薬剤師252名。2019年から7年間で、売上は76億円から105億円へ。この間、調剤報酬改定は何度も行われ、薬剤師の採用難は年々厳しさを増しました。業界全体が「制度にどう合わせるか」に追われた7年間で、この会社は逆のことをやってきました。

代表取締役の糸賀誠さんにお話をうかがって、私が最も印象に残ったのは、次の一言です。

「制度に振り回される経営はしない」

最初に捨てたのは「門前」という常識

糸賀さんは大学卒業後、医薬品卸で11年間、呉地区を中心に営業として医療の現場を回り続けました。そこで抱いたのは、当時の薬局に対する強い違和感です。狭く、プライバシーもない。処方箋のとおりに薬を渡すだけの機械的な場所。本当に地域住民の健康に寄り添う、温もりのあるかかりつけ薬局をつくりたい。33歳だった1997年8月に会社を設立し、翌月に1号店を開局します。

当時、業界は医薬分業の波に乗り、大病院や大型クリニックの門前という一等地の確保、いわゆる「場所取り合戦」に血眼になっていました。糸賀さんは、その門前への出店要請をすべて断り続けます。当時としては極めて異例で、リスクの高い決断でした。実際、売上も店舗数も伸び悩む時期が続き、「本当にこの戦略で良いのか」と自問自答を繰り返す日々だったといいます。

では、代わりに何をしたのか。薬局の価値を高めるには、まず地域に必要とされる「良い医療機関」をつくることが先決だと考え、医業経営のコンサルティング事業を始めました。地域に不足している診療科の優秀な医師を自ら誘致し、医療モールや医療ビルを自社開発する。場所を取るのではなく、地域に必要な医療インフラを自分たちで創り出す。この発想の転換が、他社が真似できない立地基盤をつくりました。

保険の内側にいては、地域貢献は形骸化する

医療モールの展開で30店舗規模まで成長したころ、糸賀さんは次の壁にぶつかります。保険調剤という仕組みそのものの限界です。

患者さんは、病気になった後でしか処方箋を持って訪れません。どれほど地域貢献を掲げても、その構造の中では受動的な存在にとどまる。全国の薬局で行われている「健康フェア」を調べても、その多くは一過性のイベントで終わっており、未病予防や生活習慣の改善、つまり患者さんの行動変容にはつながっていない。糸賀さんは、ここに冷厳な現実を見ました。

一時は、薬局事業をすべて畳んで医療コンサルティング一本に絞ろうか、と本気で考えたそうです。それほど深い挫折でした。しかし選んだのは撤退ではなく、保険薬局というビジネスモデルの再定義でした。病気になった後に訪れる場所から、病気になる前に誰もが気軽に立ち寄り、生活習慣を改善して薬を減らす「予防の拠点」へ。壮大な構想を胸に、糸賀さんは大手ヘルスケア企業に自らアプローチし、アライアンスを組みました。

猛反対された施設が、3年後に地域の拠点になる

2019年4月、呉市に「オールファーマシータウン」がオープンします。健康的な食事を提供する「オールカフェ×タニタカフェ」、管理栄養士が常駐し健康測定や相談ができる「オールラボ」、行動変容を促す会員組織「オール健康くらぶ」、がんの正しい知識を広める「みんなのがん学校」、睡眠を可視化する「ねむりの窓口」。食・運動・測定・学び・医療が一つの建物に同居し、互いに送客し合う日本初のヘルスケア複合施設です。

社内の幹部からは猛反対されました。「保険薬局がそこまでする必要はない。マネタイズが成り立たない」。これに対して糸賀さんは、こう返しています。

「周囲に反対されるということは、世の中にない新しい価値があるということだ」

ただ、開設後の3年間は社員も無関心で、地道な運用の継続を要しました。花開いたのは、そこからです。現在5施設で、月間2,500名を超える未病相談が発生し、そのうち月間130名近くが管理栄養士による30分の個別カウンセリングを継続利用している。血液検査の数値が劇的に改善する症例が積み上がったことで、周辺の医療機関の医師から「オール薬局で栄養指導を受けてきなさい」と患者さんが紹介される、医療機関からの逆紹介ルートまで生まれました。

点ではなく、面で勝負する

ここが、この事例の一番おいしいところだと私は思っています。

通常の医療モールは、クリニックを集めて、その門前に薬局を出す構造です。薬局はクリニックの来院者に依存します。オールファーマシータウンはこれが逆で、カフェやラボが集めた来店客をクリニックに送客する。薬局側が集患の起点になるから、クリニックにとっても明確なメリットがある。だから関係が長続きする。処方箋を待つ場所が、地域の健康コミュニティの入り口に変わった瞬間です。

糸賀さんはこれを「点ではなく、面で勝負する」と表現します。本業の点を磨くだけでなく、面として多角化することで、顧客との接点が増え、単発の関係がロイヤルカスタマーに育つ。7年間で29億円の成長は、この面の広がりがつくったものです。

100億円の先に、何を置くか

売上105億円に到達したことで、金融機関や外部企業からの見られ方は激変しました。全国から事業承継やM&A、新規アライアンスの案件が「勝手に動き出し、殺到する」状態だといいます。

それでも糸賀さんは、店舗数を増やすだけの規模拡大には興味を示しません。関心は、次の時代の「新たなヘルスケア企業の概念」をつくることにしか向いていない。展開の描き方も面白い。自社で全店舗を出店するのではない。中国地方の各地域にハブ拠点を生み出し、自社の薬局がないエリアでは地域に根ざした保険薬局にノウハウを提供して全国に広げる。二段構えです。

100億円という数字は、この会社にとって目的ではなく、次の概念をつくるための通過点なのだと思います。

経営者の皆さまへ

マイライフ様の事例から、私は三つの示唆を受け取りました。

一つ目は、制約を前提にしないこと。制度や立地という与えられた条件に最適化するのではなく、顧客にとってのあるべき姿から逆算して、足りないインフラを自分でつくる。門前を断った創業期も、医療モールの自社開発も、根っこは同じ発想です。

二つ目は、本業の限界を直視すること。保険の内側にいる限り届かない顧客がいる。この事実から目を背けず、保険外の領域に踏み込んだからこそ、本業の処方箋枚数まで増えた。多角化は本業の逃避ではなく、本業を強くする手段になり得ます。

三つ目は、反対を撤退の理由にしないこと。社内の猛反対も、3年間の無関心も、糸賀さんにとっては「新しい価値の証拠」でした。ただし、そこには3年耐える覚悟と、数字で証明する執念がセットで必要です。

貴社にとっての「門前」は、何でしょうか。当たり前すぎて、疑うことすらしていない前提が、まだあるはずです。

 

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