【100億宣言】株式会社ハーベス「従業員の幸せ」を原動力に、特殊潤滑剤の枠を超えて飛躍する多角化経営の全貌

2026.10.22

株式会社ハーベスは、1988年の創業以来、特殊潤滑剤メーカーとして電子機器や自動車産業の発展を裏方として支え続けてきた企業である。単一事業への依存から脱却すべく天然水や化粧品事業へと多角化を進め、近年はM&Aを駆使して劇的な成長を遂げている。グループ全体で従業員400名、売上高150億円規模に迫る現在も、「従業員の幸せ」を最優先に掲げ、無料の社員食堂の運営や徹底した利益還元を実践する。同社の挑戦と成長の軌跡を紐解く。

企業情報
会社名
株式会社ハーベス
設立
1988年4月14日
従業員数
グループ約400名
事業内容
潤滑剤事業、コーティング剤事業、充填包装事業、天然水事業、化粧品事業、NST事業
100億宣言
https://growth-100-oku.smrj.go.jp/companies/pdf/01752-00.pdf
HP
https://www.harves.co.jp/

特殊潤滑剤メーカーとしての創業と初期の泥臭い歩み

株式会社ハーベスは、1988年に特殊潤滑剤の製造および販売を目的として産声を上げた。現在でこそ多角的な事業展開と強固なグループ経営を行う同社であるが、その出発点は極めて小さな組織からであった。

同社代表は創業前の約5年間、ベンチャー企業に近い規模の組織に身を置き、営業活動から資料作成、技術的な文献の収集に至るまで、文字通りあらゆる業務を経験している。この「何でも自ら手掛ける」というサラリーマン時代の下積み経験こそが、のちの企業経営における広範な視野と、徹底した現場主義の原点となった。

当時の限られた経営資源の中で、顧客の要求にいかに迅速かつ的確に応えるかという課題に対し、同社は代表自らがフロントに立ち、細やかな顧客対応を積み重ねることで活路を見出した。

一人で何役もの業務をこなし、営業からバックオフィスまでを一貫して担うハードワークを地道に継続した。この創業期における泥臭いまでの顧客志向と信頼構築への愚直な姿勢が、のちの持続的な成長を支える強固な事業基盤となり、中堅企業へと飛躍するための揺るぎない礎となったのである。

主力市場の変化と自動車電装部品への戦略的シフト

創業後、同社の特殊潤滑剤は主にカメラや家電製品の分野で重用された。特に顕著な採用実績があったのは、CDプレイヤーなどのオーディオ機器である。CDプレイヤーのトレイを開閉する機構など、物理的に「動く」部分には、摩耗を防ぎスムーズな動作を担保するための潤滑剤が不可欠であった。同社の製品はこうした精密な可動部において高い信頼を受け、大量に採用されることで長らく業績の屋台骨を支えていた。

しかし、事業環境は常に変化の波にさらされる。音楽の視聴スタイルがCDからデータ配信へと急速に移行し、物理的なトレイを持つオーディオ機器の需要は世界規模で減少していった。同時に、主力市場の一つであったカメラ市場においても、フィルムカメラからデジタルカメラへ、そしてスマートフォンへの機能統合へと急激な技術革新が進んだ。それに伴い、機器の小型化や可動部品の削減が進み、潤滑剤が活躍する物理的な機構そのものが減少していくという構造的な危機に直面した。

動くものが減少すれば、当然ながら潤滑剤の需要も減少する。この市場の変遷を前に、同社は既存の領域に固執することなく、新たな成長分野への参入を戦略的に模索する。そこでターゲットとして見定めたのが、自動車産業であった。自動車は従来の内燃機関から、ハイブリッド化や電子制御化へと大きなパラダイムシフトの入り口に立っていた。

同社は、自動車の車内に数多く搭載されるスイッチ類や各種の電装部品に目を向けた。この戦略は見事に結実し、国内大手自動車メーカーの初代ハイブリッドカーに搭載されたスタートスイッチに同社の潤滑剤が採用されるという大きな転機を迎える。厳格な品質基準と過酷な環境下での耐久性が求められる自動車部品への採用は、同社の技術力の高さを証明するものであった。現在では、自動車の電装部品向けが同社の主力事業として確固たる地位を築いている。

顧客の要求に応え抜く研究開発体制とスピードの源泉

特殊潤滑剤のビジネスモデルは、一度顧客の仕様書に指定品として落とし込まれれば、長期にわたって安定した取引が継続するという特徴を持つ。部品の変更には多大な再検証コストがかかるため、簡単には他社製品に切り替えられないからである。しかし、その仕様書に採用されるまでのハードルは極めて高い。顧客が求める特有の摩擦係数や耐久性、耐熱性などを満たすために、数ヶ月から、長い場合には数年という長期間の検証とカスタマイズが要求される。

競合他社も同様に高い技術力を持つ中で、同社が競争優位性を発揮し、市場シェアを拡大し続けている最大の要因は、圧倒的な対応スピードとチームワークにある。画期的な特許技術のみに依存するのではなく、顧客の要望に対してどれだけ早く、正確なソリューションを提示できるかが勝負の分かれ目となる。

このスピードを生み出しているのが、同社特有の組織配置である。通常、メーカーの事業所において営業機能を持つ本社と、研究開発を行うラボや工場は物理的に離れた場所に設置されることが多い。しかし同社は、本社ビルの3階に研究開発の拠点を設けている。

これにより、顧客の元へ出向き、新たなニーズや直面している課題をヒアリングしてきた営業担当者は、帰社後すぐに3階の研究室へと足を運ぶことができる。担当者同士が直接顔を合わせ、顧客の要望をタイムラグなしで共有し、即座に試作や評価の打ち合わせに入る体制が構築されている。物理的な距離の近さが心理的な距離の近さを生み、営業と開発が一体となった緊密なチームワークを実現している。この機動力こそが同業他社からシェアを奪い続ける原動力となっている。

一本足打法からの脱却を企図した天然水事業への参入

特殊潤滑剤事業における自動車分野へのシフトと、スピーディーな研究開発体制によって業績は堅調に推移していた。しかし、特定の産業や単一の事業領域に大きく依存する「一本足打法」の経営には、予期せぬ市場変動や技術革新によって事業基盤が揺らぐリスクが常に潜んでいる。

同社は中長期的な企業の持続可能性を見据え、既存事業と同等以上の収益の柱となる第二、第三の事業の創出が不可欠であると判断した。新規事業の選定において同社が重視したのは、単に流行に乗るビジネスではないことである。自社がメーカーとしての主体性を持ち、他社との明確な差別化が可能で、高い付加価値と継続的なリピート性を見込める商材であることが絶対条件であった。

この厳しい基準のもと、同社が約20年前に果敢に参入を決断したのが天然水事業である。単なる飲料水の販売ではなく、厳格な衛生管理体制を敷き、採水地における独自の権利を確保した上で、高品質な天然水を市場に供給するという難易度の高いビジネスモデルを選択した。

新たな領域での事業立ち上げは想像を超える困難を伴った。特殊潤滑剤とは全く異なる市場特性や流通チャネルの開拓、そして生産設備への多額の先行投資が必要であった。事業開始から実に長期間にわたり赤字が続くという、経営的に苦しい忍耐の時期を経験することになる。それでも同社は撤退することなく品質へのこだわりを貫き、地道なブランド構築を継続した。その結果、少しずつ顧客の支持を広げ、参入から約20年という長い歳月を経て、ついに前期において単年度での黒字化を達成するに至ったのである。

化粧品事業への展開と自前主義の限界に直面した課題

天然水事業の立ち上げに奮闘する一方で、同社はさらなる事業ポートフォリオの拡充を目指し、化粧品事業への展開にも乗り出した。潤滑剤で培った化学的な知見や、天然水事業で得た品質・衛生管理のノウハウを応用し、自社ブランドの化粧品を開発・販売するという戦略である。

しかし、ここでも同社は新規事業をオーガニックに(自社単独で)立ち上げることの厳しさに直面することとなる。化粧品市場は、すでに莫大な資本力を持つ大手メーカーが強固なブランド力を築き上げている成熟市場である。優れた製品を開発したからといって、すぐに消費者に認知され、継続的な購買に結びつくわけではない。

消費者のインサイトを捉えたマーケティング戦略の構築、多様な販売チャネルの開拓、そしてブランド認知の獲得には、莫大なコストと途方もない時間が必要であった。天然水事業で約20年という時間をかけてようやく黒字化にこぎつけた経験から、自社のみのリソースで新たな柱を立てることには、時間的にも資金的にも限界があるという事実を経営層は痛感させられた。

この経験は、同社のその後の経営戦略に大きな転換をもたらすことになる。ゼロからすべてを自前で構築することに固執せず、すでに基盤を持つ企業との連携や買収を通じて「時間を買う」という発想の転換である。新規事業の早期立ち上げとグループ全体の成長を加速させるため、同社はM&A(企業の合併・買収)という新たな手法の活用へと舵を切る決断を下した。

時間と機能を買うM&A戦略の本格展開と専門人材の登用

自前主義の限界を悟った同社は、企業成長の新たなドライバーとしてM&A戦略を本格的に稼働させる。すでに独自の技術や顧客基盤を持ちながらも、後継者問題などを抱えている企業をグループに迎え入れることで、新規事業の立ち上げ期間を大幅に短縮し、事業の多角化を一気に推し進める狙いがあった。

しかし、M&Aは相手先企業との複雑な交渉や、財務・法務面での厳密なデューデリジェンス、そして何より買収後の円滑な組織統合(PMI)が成否を分ける高度な経営手法である。社内にそうした専門的な知見や経験を持つ人材が不足している中で、次々と案件を成功させることは容易ではない。

そこで同社は、これまでに自社の案件で仲介役を務め、6件ほどのM&Aの成立をサポートしてきた外部企業の担当者に着目した。幾度もの交渉を通じて、その担当者の実務能力の高さや、同社の経営理念に対する深い理解度を確信していた同社は、彼を自社の取締役として電撃的に迎え入れるという決断を下す。

この専門人材の登用は、同社のM&A戦略に劇的な加速をもたらした。案件のソーシングから条件交渉、そこで統合プロセスの設計に至るまで、経験豊富なプロフェッショナルが社内から主導することで、リスクを最小限に抑えつつ、質の高いM&Aを連続して実行できる体制が整った。この戦略は功を奏し、同社は着実にグループの規模を拡大していくことになる。

買収先企業のポテンシャルを引き出す財務透明化と還元策

M&A戦略の成功は、単に企業を買収することではなく、グループ入りした企業のポテンシャルをいかに引き出し、シナジーを創出するかにかかっている。同社が買収した企業の中には、優れた職人技術を持ちながらも、経営管理が旧態依然としていたり、業績が伸び悩んでいたりするケースも少なくなかった。

同社は、買収先企業の業績を向上させるための絶対的なルールとして、「財務内容の完全なオープン化」と「徹底した利益還元」を導入している。旧経営陣の下では、会社の利益状況が従業員に不透明であったり、利益が出ても設備投資や一部の層への還元に偏りがちであったりしたため、現場のモチベーションが上がりにくい構造があった。

同社はグループ入りした企業に対し、売上や利益などの財務データを従業員に包み隠さず公開する。その上で、業績が向上し利益が出た場合には、明確な基準に基づいて従業員に還元することを約束し、それを確実に実行している。

特に特徴的なのは、6月と12月の年2回支給される業績連動賞与を「現金手渡し」で行うというアナログかつインパクトのある手法である。自らの働きが会社の業績に直結し、それが目に見える形で報われるという体験は、現場で働く従業員のモチベーションを劇的に高めた。この透明性の高い経営と実直な還元策により、買収時には売上数億円規模であった工場が、短期間で倍以上の売上を叩き出すまでに急成長を遂げるなど、同社のPMI手法は目覚ましい成果を上げている。

従業員の健康と働きがいを追求する無料の社員食堂投資

M&Aによる多角化が進み、グループ全体の従業員数が400名規模へと拡大する中で、同社が経営の最重要課題として掲げているのが「従業員の幸福」である。「会社に関わるすべての人が自社を好きになり、仕事を通じて成長し、幸せになること」を究極の目標としている。

ガラス張りでスタイリッシュな外観の社員食堂・カフェスペース

この理念を具現化する象徴的な施策が、本社や工場に導入された「完全無料の社員食堂」である。かつて、執務室でカップ麺やコンビニ弁当を食べている従業員の姿を見た代表は、食品添加物による健康への悪影響を強く危惧した。従業員に健康的で美味しい食事を提供したいという強い思いから、多額のコストを投じて食堂の運営に踏み切ったのである。

この社員食堂では、専属の調理スタッフによって週替わりのバラエティ豊かなメニューが提供されている。チキンの中華割りや、プルドポーク、ハラミを使用した本格的な肉料理など、単なる無料のまかないの域を超えた、満足度の高い食事が毎日提供されている。

この取り組みは、従業員の健康増進やモチベーション向上に直結しただけでなく、副次的な効果として採用活動にも絶大な威力を発揮している。会社が利益を従業員の健康と環境に惜しみなく投資しているという事実は、求職者にとって極めて魅力的なメッセージとなる。実際に、新卒採用の募集においては、定員に対して100名を超える応募が殺到し、有名国共立大学の優秀な学生の関心を惹きつけるなど、企業の採用競争力を飛躍的に押し上げている。

次なる成長ステージを見据えたグループ経営体制の構築

複数の事業とグループ企業を抱える規模へと成長した同社は、各事業の特性に合わせた機動的な運営と、グループ全体のガバナンスを両立させるための体制構築を進めている。強力なリーダーシップによる牽引から、権限委譲と組織力で戦うフェーズへの移行である。

現在、同社は取締役会において、潤滑剤事業、生産本部、天然水事業、包装充填事業、化粧品事業、そして管理部門といった主要な領域ごとに担当役員を配置し、専門性の高い経営陣がそれぞれの事業を主導する体制を敷いている。各役員が責任と権限を持ち、スピーディーな意思決定を行うことで、変化の激しい市場環境に対応している。

また、新たにグループ入りした企業に対する統合プロセス(PMI)においても、細やかな配慮が行われている。買収後すぐに親会社から経営陣を送り込んで急激な変革を強いるのではなく、一定期間は元の経営陣に事業を委ね、企業文化を尊重しながら段階的な統合を図るケースも多い。

その後、適切なタイミングでグループ内から新たな経営責任者を派遣し、同社の経営哲学である「財務の透明化」や「利益の徹底還元」といった仕組みをインストールしていく。月に一度の役員会を通じてグループ各社の状況を綿密に把握しつつ、現場の裁量を重んじるこのバランスの取れたグループ経営体制が、同社の持続的な成長を支える強固な骨格となっている。

まとめ―グループ売上100億円のその先へ向けた持続的な価値創造

主力である特殊潤滑剤事業の堅調な推移と、M&Aを通じた多角化戦略の成功により、同社はグループ売上高150億円という大きなマイルストーンを達成した。しかし、同社にとってこの数字はゴールではなく、通過点に過ぎない。

さらなる飛躍に向けて、同社は中堅企業向けの公的支援制度などを戦略的に活用しつつ、さらなる飛躍を目指す。制度活用により資金を調達し、次世代の生産設備への投資や、新規事業への展開を加速させるための原資としてしていく。さらなる飛躍に向けた先には、売上200億円、300億円といったさらなる高みを見据えている。

しかし、規模の拡大を追求するプロセスにおいても、同社の根底にある信念がブレることはない。それは、「会社は働く従業員のためにある」という哲学である。どれほど事業規模が拡大しようとも、財務情報を隠さずオープンにし、生み出した利益を従業員に直接還元し、無料の食堂を通じて健康と活力を提供し続ける。

「利益の最大化」を目的とするのではなく、正しいプロセスと従業員への投資を続けた結果として「利益が創出される」というサイクルを証明し続けている株式会社ハーベス。中小企業がいかにして中堅企業へと飛躍し、そして持続可能な価値を社会に提供し続けるのか。同社の果敢な挑戦と揺るぎない信念の歩みは、これからも力強く続いていく。

100億企業化
コンサルティングに
ついてはこちら

お問い合わせ

CONTACT

CONTACT FORM