「売る」より「価値」を優先する ― シェアNo.1企業が描く次代の成長モデル
2026.10.22
いつもお読みいただき、誠にありがとうございます。
船井総合研究所 ミッドマーケット支援本部 副本部長 岡﨑 晃平です。
今回ご紹介するのは、国内レンタルサーバー市場で圧倒的なシェアNo.1を誇るエックスサーバー株式会社様です。2025年3月期の売上高は83億5,442万円、従業員243人。創業以来21期連続の増収を続け、売上100億円は通過点、その先の「300億円の景色」まで見えている会社です。
先日、辰巳準之介副社長と石丸洋平取締役に、じっくりお話をうかがってきました。2時間あまりの取材で強く感じたのは、この会社の成長が、緻密な事業計画や勇ましい拡大戦略の産物ではないということでした。むしろ、彼らが口をそろえて言ったのは「目の前の『正しい』と思うことを、小さく積み重ねてきただけ」という言葉です。
広告ではなく、プロダクトが選ばれた
創業は2003年7月。小林尚希社長がまだ大学在学中に立ち上げた会社です。きっかけは、海外のサービスの品質と価格に衝撃を受けたことでした。「日本にも、それ以上に質の高いインフラを、納得感のある価格で提供したい」。この純粋な思いが出発点にあります。
当時、同社の料金は国内市場では高価格帯に見えたかもしれません。それでも、サーバーの処理速度、安定性、サポート体制という本質的なクオリティを磨き続けた結果、「エックスサーバーはとにかく速くて安定している」という評判が、リテラシーの高いエンジニアやクリエイターの間で信頼として広がりました。
安さで選ばれたのではなく、提供する「価値」に見合う適正な価格で勝負した。広告や営業に頼りすぎず、技術力で選ばれるブランドを確立したのです。
変革1:「Web完結」に固執せず、間接販売へ踏み込む
順風満帆に見えた同社が、数年前に新しいフェーズへ入ります。Webマーケティングでの獲得だけでなく、より幅広いユーザーにプロダクトを届けるため、間接販売(BtoBtoC)を担う営業部門を立ち上げました。
ただ、ここで辰巳副社長が選んだのは、世の中の一般的な「とにかく足で稼いで売る」拡大戦略ではありませんでした。「我々の中に、営業を強化して無理に売るという発想はありません。あくまでプロダクトが良いという前提があり、その良さを必要としている人に正しく届けるための接点を整えてきただけです」。
もともと同社のサービスを高く評価し、周囲に勧めてくださる法人顧客や制作会社が多くいました。しかしWeb完結の仕組みでは、法人特有の複雑なニーズに応えきれず、紹介者と深い協業関係を築くのが難しかった。そこでWeb制作会社や開発会社を、単なる販売先ではなく「市場を共に拓くパートナー」として巻き込む体制をつくったのです。
結果、このチャネルは新しい収益の柱として爆発的に成長しました。Web直販ではリーチできなかった顧客層への導入が、一気に進んだのです。
変革2:「数字にこだわれ。だが数字にとらわれるな」
2025年10月、同社はこれまで根底にあった「ユーザーのため」という姿勢を、さらに突き詰めて「ユーザーアブソリュート(ユーザー絶対主義)」という言葉で定義しました。
辰巳副社長の説明が、私はとても好きです。「数字には徹底してこだわってほしい。しかし、数字を上げることそのものが目的になってはいけない。会社の目先の利益のために、ユーザーにとってプラスにならない提案をすることは、我々の価値観が許さない」。
評価制度も徹底しています。たとえ目標を達成しても、それがユーザー絶対主義に反するプロセスであれば評価されません。経営陣は今でも、ユーザーに届ける案内文の言葉一つにまでこだわる。自分たちの思想を正確に伝える言葉を大切にするからこそ、社員は迷わず「ユーザーにとっての最善」を選べるのだといいます。
変革3:管理の優先順位を変え、成長スピードを最大化する
もう一つ、私が強く印象に残ったのが財務・管理の考え方です。「エックスサーバーでは、厳密な予算管理を優先していません」。この一言に、同社の自信が表れています。
期初の細かな予算策定や差異分析に時間をかけるより、その時々のベストな選択を優先する。予算を捨てたわけではなく、優先順位を変えたのです。
その判断を支えているのが、エンジニア的な合理性です。「細かい積み上げをしなくても、着実に利益が出せる収益構造を最初から設計している」。1顧客あたりの採算性(ユニットエコノミクス)が合っていれば、投資に上限を設けて制限する意味はない。逆に価値を生まないなら1円も使わない。この判断を高速で行うため、重厚な稟議プロセスよりも現場のスピードを優先しています。
管理コストを最小化し、ユニットエコノミクスで即断即決する。この構造的な強みが、急成長の原動力になっているのです。
次なる変革は、AI・クラウド
その視線は、すでに「次」に向いています。「国内のホスティング市場は、人口減少とともにいずれ頭打ちになります。次の成長エンジンは間違いなくクラウド、そしてAIです」。
同社は経済産業省の「中堅・中小成長投資補助金」なども活用し、約22.7億円規模の投資を断行しています。狙いは、AI開発やビッグデータ解析の基盤となる高性能クラウドインフラの構築です。「サーバーを貸す」ビジネスから、その上で動く「AIサービス」「DXソリューション」を提供する企業へ進化する。目指すは売上300億円、そしてその先へ。
シェアNo.1に安住せず、変化を恐れずに自己変革を続けることこそが、この会社の変わらぬ本質なのだと思います。
経営者の皆さまへ
エックスサーバー様の事例は、管理や数値目標に縛られがちな現代の経営に対して、「何のために経営するのか」という原点を問い直す、示唆に富んだケースです。
強さの源泉は、二つに整理できます。一つは、自社の思想をとことん純化したこと。「ユーザーのため」という言葉を、評価制度や日々の言葉遣い、そして案内文の一言にまで落とし込んだことです。もう一つは、構造的な合理性。思想を貫くために、管理の仕組みそのものを自社に合わせて設計し直したことです。
思想の純化と、構造の合理性。この両輪が揃ったとき、組織は「結局は勝つ」という状態に入ります。
貴社の理念は、日々の評価制度や投資判断に、どこまで落ち込んでいるでしょうか。売上目標の前に置くべき「価値」は、明確になっているでしょうか。
100億円企業への道は、特別な戦略の先にあるのではなく、こうした地味な積み重ねの先にある。今回の取材で、私はその確信を一段と強くしました。
当社では、100億を目指す・実現した企業様が実際に取り組んだ事例を研究しています。
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